イージーブリードの治療例 最近の学会発表を中心にして

家畜改良事業団 古館 誠先生

 

イージーブリードとは、膣内投与プロジェステロン除放性周期同調剤で、本体のシリコンの中には1個当たりプロジェステロン1.gが練り込んであります。

挿入期間は単独で7〜12日間。発情周期中のホルモンをコントロールすることで繁殖障害を治療します。以前は1種類のホルモンのみ投与していましたが、最近では何種類かを組み合わせてコントロールするようになりました。

基本プログラム

@ イージーブリード単独

A イージーブリード+PGFα

B ショートプログラム

C オブシンク+イージーブリード(現在、最も精度が高いとされている)

 

<プログラム@単独使用>

day                        1215          除去後2〜5  

CIDR             発情発見後A.I. 

*ポイント

 コストが低く、やりやすい

 場合により、A.I.した時受胎率が極端に低い場合もある。

(長期間投与すると、新しい卵胞ができず、老化した卵胞から排卵が起こり、   

 受精しない。)

 長期間投与により、発情発現率は上がるが、受胎率は低くなる。

 

受精頭数

受胎率(%)

明瞭な発情

11

54.5

外陰部腫脹・粘液

8

50

直検

8

62.5

合計

27

55.6

単独投与でもよい結果がでている。

CIDRを抜く時点で血中プロジェステロン値が2ng/ml以下だと受胎率が低い。

 

 

<プログラムAPG併用>

day0              10     除去後2〜3 

         CIDR          除去時PG   発情発見後A.I.

*ポイント

 現在日本で最も多く使われているパターン

 

黒毛和種繁殖牛の試験(ただしday0でエストラジオール処置したもの)

処置頭数:119       妊娠率:47.9% 

受精頭数:81        CIDR除去後の発情日数:3.5±1.7日

授胎頭数:57

13日ほど空胎期間を短縮した。(105日 92.2日)

 

<プログラムBショート>

day0             7      9    10 

E22mg             CIDR              PG     発情発見後A.I   発情発見後A.I.
                                 または

                   発情ない時E21mg 

卵胞周期の         発情周期の   

リセット                        同調         LHを間接的

                                               に活性

*ポイント

発情徴候がかなり強いので、農家さんからの反応がよい。

卵胞膿腫にある程度効果あり

 

<プログラムC定時人工受精>

day0            8           9         10         

E22mg     CIDR          PG         E22mg      E224時間後にAI

                             

 

<プログラムDオブシンク+イージーブリード>

day0                                9          10

GnRH   CIDR       PG            GnRH      定時A.I.

 またはE2            
                         

疾病

頭数

空胎期間(日)

CIDR除去から発情の日数

受精率%

受胎率%

妊娠率%

卵巣静止

31

127

2

93.5

75.9

71

卵巣膿腫

19

145

2.5

89.5

89.5

68

 

プログラムCでの定時A.I.は妊娠率4割の結果がでた。今年はDでやっている。

 

酪農学園大 小岩先生の資料より

1年1産ではなく13ヶ月くらいを目標にする方がよい。

乳量が増加すると、空胎期間も増加する。

発情発見率がわずか10%であると、18万6000円の損失がある。

EBショートプログラムの試み

搾乳頭数131頭、フリーストールで飼育されている群

空胎日数平均 147日(経済的損失4989.115円/頭)

発情発見率をあげて損失を少なくすることを目標として、EBショートプログラムを適用。

*発情発見の指標

 mounting 3+ 外部徴候 2+  発情粘液 1+  では 100%発情発見

空胎日数の推移

146.7日から124.7日(8ヶ月後)約1ヶ月短縮できた。

*経済的損失の推移

500万 から 150万(8ヶ月後)に軽減できた。

大規模農家では、これくらいの損失が省けることがわかった。

農家さんへの意識づけが大切である。

 

 

海外におけるCIDRの臨床研究と応用

ファルマシア株式会社 岩隈 昭裕先生

 

CIDRに関する研究の歴史は実に15年以上も前にさかのぼる。この天然型プロジェステロンを含有した特長的なディバイスは発売以来、主にニュージーランドやオーストラリアにおいて様々な臨床研究を継続し、繁殖生理学の進歩と共に数々の使用法が提案され、検討されてきた。アメリカ合衆国においても本年5月にFDAより承認され、今後も一層の臨床応用研究が実施されることであろう。

近年、牛は高泌乳、餌量の増大とそれらに伴う血流量増大や高代謝率により、繁殖生理に関連するホルモンや生理活性物質の分泌や相互のバランスに異常が認められることが多く、結果として繁殖成績が悪化しているといわれている。このような事態を打開するためのひとつの方策として今あらためて注目されているのがCIDR(イージーブリード)である。しかしながら、その使用方法については現場での混乱が若干あることは否めない。

今回は、主にアメリカ合衆国で著名な研究者が多数参加して大規模に実施された臨床研究の成績を中心にその使用方法を整理してみたい。

 CIDRの臨床応用として最も頻繁に使用されている領域は次の二点である。

 

@    発情周期のコントロール

発情発見率および発情発現率を高めることにより、授精機会を増やし、妊娠率を向上させようとする試みである。CIDRの7日間挿入と除去時のプロナルゴンF25mg(5ml)筋注の併用により発情発現率が向上、かつ発情がほぼ3日以内に集中するため、農家による発情発見率も改善が見込まれる。また、オブシンクなどの繁殖プログラムと併用使用することにより妊娠率がさらに改善する。

 

妊娠率(PR)は発情発見率×受胎率の式で表される。

例えば100頭の牛で試験を行い、60頭の発情を確認でき、そのうち30頭が受胎したとすると…

 妊娠率;30/100 発情発見率;60/100 受胎率;30/60となる。

受胎率を著しく向上させるのは難しいが、発情発見率を向上させるのはCIDRを使用し、牛群の発情周期をコントロールすることによって可能である。

 

実験結果例(妊娠率)

      無処置  4〜11%    

        PG   6〜37%     

       CIDR 26〜49%    

A    無発情の治療

交配可能月齢に達しているが発情周期が営まれていない未経産牛や、分娩後無発情を呈する経産牛が対象となる。これらの牛のプロジェステロン濃度は低く、後者の場合、分娩後の卵胞波は出現しているが、閉鎖退行を繰り返していることが多く、分娩後の牛全体の約25%を占めるといわれている。CIDRの7日間挿入と除去時のプロナルゴンF25mg(5ml)筋注の併用がもっとも有効である。

注>無発情牛は、卵胞ウェーブはあるが排卵はしない状態でP濃度が低い。

 

<CIDRの作用機序>

   CIDR挿入(7日間)

    ↓

   機能性黄体レベルのP濃度持続

    ↓

視床下部ニューロンのエストロジェンレセプターの減少

GnRHの放出

LH分泌↑ LHパルス頻度↑

LHサージ 排卵

 

<アメリカ合衆国7大学共同の試験例の紹介>

    供試牛;未経産肉用牛(周期あり57%、なし43%)

        経産肉用牛(周期あり47%、なし53%)〜分娩後50〜60日   

        未経産乳用牛(周期あり95%、なし5%)   


    試験方法(概要);実験群を@無処置群APGのみ処置群BCIDR+PG処置群に分け、それぞれの発情誘起率(PG処置後3日以内)、受胎率、妊娠率を調べる。


    結果;周期の有り無しに関わらず、発情誘起率と妊娠率において、CIDR+PG処置群で他群と比べ高い値を得た。受胎率において、有意差はみられなかった。(未経産乳用牛についてはPGのみ群と併用処理群の間で有意差はみられなかった。)

   

 

  卵胞嚢腫の治療

  これは近年、GnRH非反応性の症例に応用したところ有効であったという研究結果から始まった重要な検討課題である。持続的な外因性のプロジェステロン投与が当該卵胞の黄体化を刺激するとともに、視床下部域のニューロンに作用し、エストロジェンレセプターを減少させることにより、除去後LH分泌およびパルス頻度が上昇することが確認されている。このことから、CIDRの7日間挿入と除去時のプロナルゴンF25mg(5ml)筋注の併用が有効とされる。このように一連の内分泌―受容体の機能障害を無くすことが問題の解決となりえるが、現在まで外因性プロジェステロンがどうして発情周期を正常化させ得るかという作用機序は残念ながら完全には解明されていない。今後の研究結果を期待したい。

 

  <CIDRの作用機序>


          機能性黄体レベルのプロジェステロン濃度持続投与により、
                     LHパルス頻度↓

                           

                    優性期間延長卵胞の退行
                                             除去
                           ↓                 
                     顆粒膜細胞の黄体化         LHパルス頻度上昇
       プロナルゴン投与    ↓                 

                         黄体退行              発情



 

 無発情や卵胞嚢腫などの現存する問題について

   昔に比べ高泌乳牛が増加している。このことから以下の問題が生じている。

 

        高泌乳/餌量↑/血流量↑/代謝量↑

    ⇒E量↓ P量↓ (高値を維持するのが短い)

    ⇒子宮回復遅延〜内膜炎・不受胎

    ⇒発情徴候微弱

    ⇒変性卵産生

    ⇒発情持続時間の短縮;6〜7時間(昔は12時間)

    ⇒負のエネルギーバランス(EB)の持続〜無発情/ストレス

    ⇒空胎期間の延長〜正のEBで乾乳期突入→産じょく期疾病

    ⇒黄体形成不全→PG剤に対する弱反応

 

 

 

CIDR挿入時の各種ホルモン剤併用による発情同期

安藤貴朗、上村俊一、浜名克己

目的

牛の発情同期化は、 発情発見の省力化と、発見率の向上を目的としていますが、自然発情時と比べ低い受胎率が問題となっています。

 私どもの研究室では、腟内挿入型のプロジェステロン製剤であるCIDRと、ほかのホルモン剤を併用する事により、発情、排卵、受胎率などの効果について検討しましたので報告します。

供試牛 

本試験は、鹿児島県内の黒下和種生産農家6軒において行いました。

 供試頭数は142頭を用い、平均年齢は4.1歳、空胎期間は122.3日でした。

プロトコール

 供試牛は4群に分けました。A群は、CIDRの8日間挿入に加え除去1日前のPG投与を行いました。

 B群では、挿入時にGnRH100?gの投与を加えました。

 さらにC群では、除去後2日たっても発情が見られない牛に対してEB1mgを投与しました。

 D群では、挿入時にEB2mg、除去1日後にEB1mgを投与しました。

検査項目

検査はCIDRの挿入日、除去日、除去後13日での排卵後黄体確認の3日間行いました。

 検査項目は、直腸検査による卵胞、黄体の位置と大きさの確認、腟検査による発情兆候の確認、採血での血液生化学的検査的検査による健康状態の確認と、血中プロジェステロン、エストラジオール−17?測定を行いました。

 

発情発現項目

 発情観察は1日2回、テールペイントを用いて行いました。

 発情発現日は、A,B群が2.2日、C群が3.2日、D群は2.1日となりました。C群は、ほかの群と比べ有意に発情発現日の延長が見られました。

 発情発現日の割合としては、除去後2日目に63.6%、3日目に24.3%、4日目に5.7%となりました。

 人工授精は、A,B,C群では発情確認後に行いましたが、D群では、除去2日後の定時AIとして行われました。

 

処置別の成績

 全体の平均として、発情発現率は96.5%、排卵率が90.1%、処置後初回授精受胎率が40.8%となりました。

 全群ともに非常に高い発情発現率を示しました。

 排卵率では、A,B群で約90%と高かったのに対し、C,D群では約70%と低くなりました。

 処置後の初回発情に対する受胎率では、B群が51.9%と最も高くなりました。

 

血中性ホルモンの動態

 プロジェステロンは、挿入時は黄体期の牛のほうが多く高値を示しました。除去時もCIDRの影響が残り1ng以上を示し、黄体確認時には、応対の存在を反映して再び高値を示しました。

 エストラジオール−17?は、CIDR除去時にはまだ発情期のような上昇は見られず低値を示しました。

 

処置開始時の黄体の有無による成績

 処置開始時に黄体が存在した牛では、全群で発情発現率、排卵率、初回受胎率に大きな差は見られませんでした。受胎率では、D群が最も良い成績を示しました。

 黄体が存在しなかった牛では、存在した牛に比べ排卵率がやや低くなり、さらに受胎率では、A,B群では高くなるが、C,D群では低くなる傾向が見られました。

 

CIDR挿入時にGnRHの投与により排卵が見られたときの成績

 発情発現、排卵率についてはに排卵が見られた牛の成績はB,C群とも100%でした。しかし、排卵が見られなかった牛に関しては、とくにC群で成績の低下が見られました。受胎率に関しては、B群では排卵が見られなかった牛の方が高くなったのに対し、C群では排卵が見られた牛のほうが成績は良くなりました。

結果

結果として、処置開始時に黄体が存在した正常発情周期の回帰している牛では、EBの併用を行ったD群が、黄体の存在しなかった牛ではGnRHを用いたB群がもっとも有効であった。

 B,C群の比較では、全体的な成績はB群のほうがC群より受胎率は高かったが、処置開始時のGnRH投与により排卵が見られた牛ではC群のほうが受胎率は高くなった。

まとめ

 CIDRの挿入時にGnRHを投与する事で、処置後の初回授精受胎率を上昇させる事ができました。

 さらに、挿入時の卵巣状態により併用薬剤の組合わせを変えることで、より高い受胎率が得られると考えられます。                  


質疑応答

Q:イージーブリードを使用すると初回発情時に変性卵が多いのは、どういう形の変性卵なのか?

A:変性よりは老化、agingということ。排卵時期を過ぎた卵胞がずっと維持され、受精能を持たない古い卵子が排卵される。全ての変性がそうではないがこれもある。

A:優勢卵胞(10o以上)が6日以上残っている卵胞は、CIDR抜いた後排卵しないものが多い。排卵しても卵胞中の顆粒層細胞などが変性している。そして、黄体が小さく、短い周期で発情がくる。また、精子が卵子に入った時透明帯の反応が弱いため、多精子受精で死ぬこともある。5日以内に排卵するのがよい。

Q:エネルギーバランスということだが、種(和牛と乳牛)で違うのでは?

A:乳牛では、 乳量多い  乳量下がると食べた餌は自分のものに                 なる

QCIDR使ってます。成牛にエストラジオール(1r)を使用してますが、排卵せずに残っているケースもある。GnRHだと排卵する。なので最近はエストラジオールを使用しない。CIDR挿入時に排卵した方がいいという結果は納得できる。CIDR入れてたくさん薬を使用すると、お金がかかる。卵胞なくてもGnRHうった方がいいのか?

ACIDR入れる時にうつのは、新しい卵胞波を形成するため。抜いた後に排卵してほしいなら、後にうった方がよい。始め、卵胞ない時にうつと小さい卵胞が退行して、新しい卵胞波が形成されるので、受胎率は上昇すると思う。お金のことはちょっと・・・

A:アメリカの試験では、GnRHでもエストラジオールでも有意差なかった。

QCIDR抜いてから24時間後の8日目にエストラジオールをうつと教わったが、あまりよくなかった。除去後2日間発情確認をすると7割は発情がくる。来なかったら、エストラジオールをうつというやり方がよい。

A:オブシンクとCIDRの定時人工受精が受胎率的にはよい。しかし、コストがかかる。

Q:農家では、年1産が理想だが50%をきっている。優秀農家でもかなり難しい。空胎期間の長い牛の治療がメインである。卵巣だけでなく、子宮が悪いと妊娠しない。飼養管理が一番大事である。卵巣や子宮の治療でいい面だけでなく、こういう面はダメという話も聞きたい。

AQ:アメリカの試験では、まず試験に使える牛と使えない牛を分けてしまう。その使えない牛をどうするかが、実際は問題である。状態が悪い牛だと、やはり薬も効かない。イージーブリードを使われている先生方の意見を聞きたい。

AQPGやコンセラールが出来る前は、どうしてもダメな牛もいたが、ほとんどの牛が時間をもらえれば99%は受胎する。残り1%は、発情くる・未経産・卵巣よし・子宮よしなのに片方の卵巣しか卵胞出来ない。片方の卵巣を除去すればつくかもしれないが、農家さんはそこまでしない。このような経験のある先生はいますか?

A:潜在的に子宮内膜炎を持つ牛が増えている。最近はOTCの注射のみで済ませているが、昔やっていた子宮洗浄やイソジン注入などを見直すべきではないか。もちろん餌や飼養管理もだいじである。

A:頚管に狭窄や閉塞など異常がある牛は、やはり子宮洗浄をして子宮の働きをよくして受精させるのが一番早い。特に未経産では、頚管をきちっと通して子宮洗浄するべき。うでのいい授精師さんでつかない牛は、難しい。

  実際に実習しながら勉強会が出来ればいい。

Q:管理の面から繁殖障害を考えなくてはならない。子牛がついていると受胎しにくいのは本当か?

A:本当です。視床下部に抑制的に働き、GnRHLHの分泌が抑制される。

A:島根の1000頭規模の繁殖・肥育の農家では、GnRHを2?3日以内に発情徴候がなかったものにうつというオブシンクの変則パターンを行っている。子供は全て2?3日以内に親から離す。空胎期間は、平均50日足らず。

A:しかし早期離乳しても子供が下痢になったり、免疫低下したりで子の値も悪い。早期離乳で親が受胎しなくなることもある。ただ離すだけでなく、よく勉強をして指導・フォローあっての早期離乳なら良いが、現在の状況は金かけて、ミルクやって大変な割には子の値も悪いので、うしろむきである。

A:何百頭の大規模農家なら子牛だけ管理した方が楽である。規模が小さいなら親につけていた方がいいのでは。

A:23頭飼い、早期離乳4日、空胎期間63日。よって、早期離乳は効果ある。IgGの低下により子牛が死亡することは1頭もない。

A:母乳に勝るものはない。それに代わらない位の管理が出来れば良い。それなりに勉強しないとメリットない。結果が出ているところの年間の飼養管理の方法など教えてほしい。

QCIDRを使っている先生でお金はどうしているのか?

ACIDRは現金でもらっている。排卵障害でうつ薬は問題ない。

ACIDRが共済の点数に載るように働きかけを行っています。しかし、繁殖は点数でなく現金でもらう方向になってきているのでなかなか厳しい。

AQ:日獣の臨床の先生にもお願いしているけど難しい。日獣の検討委員会の先生は事務方ばかりで現場のことはよくわかっていない。繁殖障害など大変な仕事をしているのに点数低い。薬屋さんも儲からない。この状況を少しでも改善できればいいが。それには大学の先生の協力をお願いしたい。

A:農水省がいうには、保険制度なのだからそれがつぶれては意味がない。若い良い人材も来なくなる。共済の先生は体張ってやっているのだから、それだけ報酬をもらうのは当たり前である。そういう方向で協力していきたい。

 

二日目:体験発表

平成9年9月の約4年半前からCIDRを使用してきた。始め1年〜1年半は約8割以上の発情回帰があり、受胎率4〜5割で成績よかった。しかしその後、成績が落ちはじめた。農家さんの飼養管理低下によるものなのだろうか?そんな時、牛越生理学研究所からCIDRとアドヘルスの併用を勧められた。

 

 

 

例数

AI頭数

(%)

初回受胎頭数

(%)

 

CIDR10日とアドヘルス

15

12

80.0

7

46.7

 

上記にPG併用

20

17

85.0

12

60.0

@

合計

35

29

82.9

19

54.3

参考資料

A

CIDR単味12日間

366

294

80.3

141

38.5

B

CIDR単味14日間

91

70

76.9

38

41.8

C

PG25mg併用

368

309

84.0

174

47.3

D

PMS500IU併用

85

72

84.7

38

44.7

E

合計

910

745

81.9

391

43.0

 

この試験の当時は大変成績よかったが、徐々に成績が悪くなった。農家さんが牛の管理・手入れを怠っているように思える。理想はオブシンク+CIDR(7日間)だけれど、注射を嫌う農家さんもいる。大規模な農家さんだとまとめてできるが、小規模農家は厳しい。発情微弱牛には、ギナンドール2mgCIDRを使っている。栄養状態が落ちている牛では、PGも使用する。

 

QCIDRは7日、10〜12日どちらがいいのか?乳牛では7日がいいということだけれど、黒牛では10〜12日入れてもP値が落ちない牛もいる。実際使っていて10〜12日の方が受胎率がいいという感触があるが本当はどうなのか?

A:国際的にはCIDRは7日間に決めようという動きがある。曜日で決めて混乱を防ぐ。それプラスPGで調節するという意見があります。

A:統計的には、曜日をずらしてまで行う程差がでない。しかし、多くの試験が乳牛で行われており、黒毛とは少し違うかもしれない。

A:直検で卵巣萎縮、卵巣静止と診断されるとふつうは栄養指導のみで終わる。これにCIDR+アドヘルスを併用すると良い結果がでた。

A:エストラジオール、ギナンドールを黒毛ではうたずに長い間CIDRを入れて、抜く時にPGうつだけでも成績よかった。

ACIDR入れた後のP値がどれだけ維持するかは、肝臓の代謝機能に関わる。肝臓の機能が活発だとP値はすぐ下がる。肝機能の悪い牛は代謝能力がないので長く入れていても1ng,ngなどある程度のP値を維持できるのではないか。

A:アドヘルスを単味で長く使用すると、乳牛で嚢腫様の症状が出たことがあり成績が悪くなることがあった。適切な条件、状況で使用しなければならない。追跡調査をさらに行ってまた教えて下さい。

***********************************

生後3日の子牛(親:忠福、20平茂)、右横臥、沈鬱状態、体温39.3℃、結膜蒼白、黒っぽい血便⇒親に踏まれたのか?⇒点滴、輸血、強心剤、止血剤⇒呼吸止まったが再び動き出した⇒ブユがさすと皮下に血がたまる⇒血腫か?⇒4?5産であったが初産の時も前回の時も同じ症状だった⇒翌朝、死亡していた

剖検結果:第4胃から盲腸にかけて出血、肝臓・脾臓・腎臓にかけて点状出血、肝臓蒼白、心臓の後ろ出血・前点状出血、胸垂部の脂肪が出血、

?

エンテロトキセミアだろうか?しかし、結腸に出血あるはず。前の年も同じ症状で死んでいるので、遺伝的なものだろうか?

こういう症例にあったかたはいますか?

 

Q:血餅はありましたか?

A:ない。踏まれたのなら、血餅あるはず。内臓、特に心臓の出血斑がひどかった。肝臓が蒼白で、脂肪肝のような感じで黄色い。

A:牛ではあまり聞かないが、馬でよくいわれる溶血性黄疸だろうか?

A:私のところでもお産の度に2?3日で子牛が死ぬ。どんな治療してもダメだった。初乳飲ませた後、すぐに離して人工乳をやると育つ。ミルクが原因かどうかは分からない。

Q:親の血腫検査をしてみたら?

A:調べたけれどそんなことはなかった。

Q:下痢・白痢をほとんどしない農家で4頭くらい続けて白痢が出た。3頭目は下痢をしなかったが、貧血・血便で熱が40℃近く出た。断乳、輸血をして乳を飲みだすと再び血便した。何か感染症だと思うのだけれど、貧血をおこす感染症は何かありますか?

A:貧血・血便で血液塗沫をするとアナプラズマがたくさん見えた。OTCを使用した。ヘマトも低かった。

 

 

*チュウザン病の発生がありましたが、農家のワクチンに対するクレームとか               

 ありましたら教えて下さい。

?死産とかがあって、「予防注射うってたんだけど、、、」といわれる。

 3種のを打っていても他のが動いているんだろうと言ってごまかしてます。

 ワクチンを打っている農家より、打っていない農家での方が多く奇形がでて

 います。

*ワクチンが効かないのは、ウイルスが新種だからなのか、ワクチン自体の効

 力が弱いのかどちらですか。

?正常な牛を使って試験しているので、効き目は現場やその牛の状況によりけ           

 りです。放っておけば100頭病気にかかるのが、20頭に抑えられたので

 よいとされる。しかし農家にとっては、「せっかく打ったのに、、、(怒)。」と

 なる。製薬会社には根本的に抗体があがるやつを作ってくれと頼んでるんで  

 すが。

?ワクチンの承認基準は最低60%(最終的に病気にかからない率)です。

 正常牛を使って試験をしているので、現場でのストレスのかかった牛にどれ

 くらい効くのかはまた別の話になってしまいます。あとは、メーカーの企業   

 理念によります。

?抗体はあがるんでしょう?

?はい。あとはそれを維持できるかなどが関わってきます。

?普通母牛は100%かかります。母牛から子牛への胎盤感染率は、アカバネ 

 30%、チュウザン10%、イバラキ0%とされています。胎盤は感染をブ  

 ロックするのに役立っています。今、イバラキを胎子に直接打ったらどうな  

 るかを実験しています。

?超音波がイドを使って妊娠3ヶ月の牛の胎子の腹腔に接種しましたところ、

 2週間後に流産しました。

宮崎では、福桜(以前優秀だった牛)の子牛に奇形が多い(約40%)。

発育不良で、脳には異常がない。宮崎では遺伝病の公表はしていないが、

鹿児島ではどうですか?

?特にこの系統に異常があるとはいえない。第22平茂にあって、排除されま

 した。公表はしています(県のものも、民間のものも)。

?乳頭欠損は、あまり数がでないから適当になっている(肉質優先)。本当は、

 不良形質は淘汰されなければならない。

ワクチン接種時期について一番よい時期を教えて下さい。

?最近は妊娠のどの時期に打っても良いとされています。ウシヌカカから抗体

 がとれる時期が毎年変わります。春にうって危険期を避けた方がよいですね。

?宮之城では2?3月にうっています。1?2月にも感染する可能性がありま 

 す。

?県では7?8月にうつのが良いとされています。最近では3分の1くらいの  

 人しかうちません。しかしやはりうっている所では奇形が少ない。管理がし       
 っかりしている農家では発症率が少ないです。

膿腫にCIDRを使う方法を具体的に教えて下さい。

?実際に膿腫卵胞自体には何もしていません。CIDRを抜く時にPGをうつぐら

 いです。

?何日いれるのがいいですか?

?一応世界的には1週間に統一しようということになっています。CIDRを入  

 れることで膿腫が小さくなっていきます。挿入中はLHが抑えられ、除去す

 るとLHが上昇し、次の卵胞に行きます。

?現場では膿腫にも正常牛と同じでやっています。千葉の農済で単味で12日

 いれました所、70?80%発情回帰し、50%が受胎しました。膿腫は残   

 っていますが、新しい卵胞ができて、それが排卵します。

?PRID(コイル状のもの)を12日間挿入すると、2?3日から卵胞は小さく

 なっていきます。新しい卵胞ができ、それが排卵する。3?4回は正常な発  

 情がきます。単味では排卵しませんでした。コンセラール、GnRHをうつと

 排卵しました。   

?昔はhcgをうち、治療をしっかりすれば受胎率も今よりずっと良かった。hcg

  の単位をあげて治療し、外陰部の腫脹、充血がとれていれば、黄体ができて 

 いるとした。思牡狂や粘液症などの合併症もCIDRで治るかもしれない。

 そのような経験はありますか?

?もともと膿腫は繰り返すものです。CIDR単独で治すのは難しい。他のPG

 どと併用するとよいです。ある程度血統も関係してきます。

?粘液腫などはお産をしたら毎年なる。分娩後早期にA.I.するのがよい。膿腫  

 は後のフォローをきちんとすれば妊娠する。大学の方で良い症例があればま

 とめて教えて下さい。

?アメリカでも、卵胞膿腫は多く、特に夏にみかけます。アメリカでは持続的

 に黄体がないものを卵胞膿腫とします。(25mm以下でも)

 初診時 1個の卵胞?1回注射のみ

     複数の卵胞?1回では無理なので何度か繰り返し治療

?最近乳牛で卵胞膿腫が多いのは高泌乳を出すための高タンパク質飼料のせい。

 乳は出るが繁殖障害がある。日本では25mm以上しか膿腫として治療でき

 ない。

?何mm以上が膿腫と決めているのは日本のみ。前は20mmだったが乳牛が

 多くなったため25mmにした。黒毛は20mmでもよい。

?膿腫の治療をオブシンクとCIDRでやっています。今のところ18頭やって

 12頭発情発現し、9頭もっています。膿腫牛にGnRH投与後、1週間めに

 直検を行い、黄体のある、なしで処置をかえます。安価なCIDRを使います。

   0        7    9            

      GnRH            PG      GnRH

             黄体あり

                       直検

             黄体なし 

       0               7                             17        19

    GnRH                     CIDR            PG       GnRH

 

?これは非常に良い方法ですね。

?10日間入れるのはどうですか?

?7日では足りない。古い卵胞が小さくなるのに5日、新しいのができるのに

 5日かかるので10日で良いのではないでしょうか。

?EGnRHでは違いますか?

?1日くらい、タイミングがずれるのでそこに注意がいります。最近では安価 

 なEが好まれます。

?CIDR単味だと良い結果がでないのですが。

?GnRHだけで反応する卵胞もある。CIDRを直接入れるよりは、GnRHでそこ

 にある卵胞を排卵させるほうがよい。CIDRを入れて大きな卵胞が長くつづ

 

 いてしまうとCIDRを入れても排卵しないし、しても受胎はしない。だから

 卵胞があればCIDRは7日間がよい。

?いきなりCIDRを入れた時は膿腫は小さくなるが、LHサージがうまくいか

 ない。CIDRを抜いた時に何か薬をうってLHサージを起こさせてあげない

 とだめ。

?GnRHに反応の悪い牛はGnRHを2倍、3倍量うつと、どういう訳か治る。

 しかしまた膿腫になる可能性があるので、そこをならないようにフォローす

 る必要があります。

 

 

鹿児島大学 浜名 克巳先生 講義

 

前回、チュウザン病流行の兆しがあることを報告したが、現在までにチュウザンの疑いの強い先天異常子牛が31例、本学に搬入された。そのうち17例が小脳形成不全、14例が小脳正常であった。このように従来のチュウザンとは異なる病変を示す個体が増加している。ワクチン接種を行ったものでもチュウザン病にかかっていることから、ウィルスが変異したのではないかと推測する。しかし、今年の暮れから来年の春にかけても流行の恐れがあるので、現存するワクチンを接種しておくことを推奨する。また、チュウザンの子牛は全て黒毛で、今のところチュウザンのホルスタイン搬入はない。聞くところによると、熊本、宮崎での流行はないもようである。ここで、2002年に搬入された症例の中でチュウザン疑いのものを含め、特徴的なものをいくつか紹介する。

<補足> 子牛の正常な脳 大脳 200〜220g

             小脳 20g前後(18g以上を正常とする)

     ウィルス感染症の解剖学的病変

       チュウザン;大脳欠損 小脳形成不全

       アカバネ ;大脳欠損 小脳は完全体

スライドを用いての講義

@       溝辺 02/02/02生 起立不能 

水無脳症(大脳半球なく、膜状)脳幹部、小脳は正常。 

血清検査の結果 チュウザン陽性

⇒解剖学的にはアカバネ、ウィルス的にはチュウザン

A       福山 02/02/10生 起立不能 吸乳なし 

           水無脳症 小脳形成不全(7g) 脳幹部矮小        右潜在精巣     

           血清検査の結果 チュウザン陽性

B       菱刈 02/02/12生 起立可能 吸乳あり 旋回運動 盲目 後弓反張

水無脳症 小脳形成不全 脳幹部矮小

C       菱刈 02/02/09生 起立可能 吸乳あり 

           水無脳症 小脳形成不全 脳幹部矮小

D       栗野 02/03/14生 水無脳症 小脳形成不全(9g) 脳幹部矮小

          

E       横川 02/04/15生 水無脳症 小脳形成不全 脳幹部矮小

           ⇒大脳、小脳ともになし:全体の重さ3g

F       溝辺 02/04/11生 水無脳症 小脳正常

G       大隈 02/03/25生 側脳室拡張重度〜大脳がペチャッとなっている。

            従来のチュウザン・アカバネにはみられない症状

            ⇒ウィルスの変異によるものか?

H       溝辺 02/05/07生 側脳室拡張重度〜大脳が非常に大きい 開くと側脳室拡張

           (側脳室拡張は他1例あり)

I       溝辺 02/04/09生 甲状腺腫〜67g(正常10g前後)

           水無脳症 小脳形成不全(13g) 脳幹部矮小

J       牧園 02/10/11生 4ヶ月齢 左大腿骨頭頚部骨折 

            ⇒寛骨臼直下で複雑骨折 骨頭が赤黒く変性

K       横川 02/01/28生 起立不能 腰が抜けた状態 椎骨が変形、圧迫、打撲       

をうけた感じ

           ⇒脊髄出血(TS)椎骨出血(T13L4)肋骨骨折(L36R38

            *脊髄は硬膜内で出血

L       国分 02/01/21生 左前肢にロープが巻きつき、撓骨神経麻痺の典型例

M       吉松 02/03/13生 関節湾曲症(両全肢) 右肘足骨骨折 肋骨骨折

N       末吉 02/04/26生 呼吸困難 顎骨がずれている 開呼吸 

           ⇒左右肋骨骨折のため、気管が圧迫され狭窄;気管虚脱

O       大隈 02/04/23生 胎子超巨大(48g) 難産時の左肘手骨骨折 

P       松山 02/02/09生 口蓋裂あり〜数年ぶりに確認 鼻腔と口腔が直通

           左右潜在精巣

三つ子のフリーマーチンについての報告

 フリーマーチン発生の確率は、双子の場合ホルスタインで2〜3%(6産以上で7〜8%)、黒毛で0.5%とされ、三つ子の場合には1万頭に1頭の確率で発生するといわれている。今回、蔵前先生から三つ子のフリーマーチン子牛の報告を受け、非常に珍しい症例のため紹介する。

 本症例は、栗野の40頭規模の農家で発生。5/21、分娩予定日の約25日前に三つ子がうまれる。(1頭目♂10kg死亡、2頭目♀フリーマーチン、3頭目♀30kg死亡)

外見的には普通だが膣の長さなどを測ると、腔が短く細いことが判明した。DNA、染色体についてのPCR検査でも陽性であった。;染色体XYを持っていた。陰毛が長く、陰核が大きいなどのフリーマーチンの他特徴を示してはいなかったが、本子牛はフリーマーチンであるといえるだろう。

その他報告事項

     牛に限らず馬、犬、猫など広範囲の動物を網羅した実習書 臨床繁殖学マニュアル(定価4800円)が完成しました。実にわかりやすく、機能的に作ってあるため、学生だけでなく、新卒臨床家のテキスト的な役割も果たせると思います。購入希望のある方は、鹿大 浜名まで。

     鹿大獣医学科に新しく産業動物学講座が増えました。 (出口教授;前内科、豚を専門に研究)

     連合大学院は広く社会人の方にも入学を希望しています。学費はかかりますが、研究をされたい方、将来大学などで人材育成を考えておられる方は、是非入学して、博士号を取っていただきたいと思います。

質疑応答

 

Q;宮崎では、種牛フクザクラの子に発育不良や奇形が多い。宮崎では遺伝病やその類の公表は行っていないが、鹿児島ではどうなのか?また、フクザクラの系統で奇形子牛などの報告はあるか?

A;公表はなされている。 この系統での奇形報告はない。

Q;ワクチンを打つタイミングはいつがいいのか?(効果や危険について)。 

A;健康な妊娠牛では、ワクチン接種はいつでも可能とされているが、妊娠初期にうつのは止めたほうが良いのではないか?去年は10月頃チュウザンが動いていたため、7,8月頃にワクチンを打っても良いのかもしれないが、年によって流行時期が異なるので春先にワクチンを打ったほうが良い。 *2、3月にワクチンを打つところもある。

Q;両前肢の球節の伸びない子牛が多い。神経症状はみられない。これは、先天異常なのだろうか?

A;関節湾曲症です。骨や腱ではなく、筋肉の異常。アカバネ子牛でみられる症状。 添え木やギプスで伸びる例もある。

A;少しの湾曲ならば、1週間から20日もすれば自然に治ることが多い。

   ギプスをはめると固定されるため、かえって治りが遅くなることがある。程度により判断が求められる。

A;私はテーピングを使用している。人間のテーピングとほぼ同様に行う。(粘着性、伸縮性 5cm幅のものを使用。)

A;ギプスやテーピングなどの処置を行うと、牛の状態が悪くなり値段が落ちてしまう。治療コストとの関係を考慮すべきだと思う。